鑑別すべき類似疾患

脊髄性筋萎縮症(SMA)と鑑別すべき類似疾患や他疾患が疑われたSMAについてご紹介します。

肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)1~3

肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)は、近位筋優位の筋力低下がみられる疾患です。近年、多くの原因遺伝子がみつかってきており原因は多岐にわたります。遺伝学的検査や筋生検などで分類できるのは肢帯型筋ジストロフィー患者さんの60~70%で、そのうち日本人では常染色体優性遺伝形式の患者さんはまれで、常染色体劣性遺伝の患者さんのほうが多く、それ以外は原因がわかりません。常染色体劣性遺伝の場合、発症は小児期から50歳代以降までで、症状や重症度も個人差があります。近位筋(腰帯筋)優位の筋力低下を示し、顔面筋罹患はなく、動揺性歩行や階段昇降困難、易転倒性などの歩行障害で発症します。下腿の仮性肥大はないか、あっても軽度で、歩行不可能になると関節が拘縮します。心合併や呼吸不全は少なく、生命予後は良好とされています。

診断方法 他の型の筋ジストロフィーではそれぞれ特徴的な臨床像があるのに対して、肢帯型では特徴的な所見がない。そのため、症状や筋生検などに特徴的な所見がなく、血清CK値高値、筋電図等で筋原性変化(低振幅、短持続時間)、病理所見、遺伝学的検査などを組み合わせて診断が行われる。
治療方法 根治療法はなく、リハビリテーションや対症療法が行われる。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)1,4,5

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、上位・下位運動ニューロンが共に変性し、徐々に全身の筋肉が萎縮する進行性の疾患です。病勢の進行は比較的速く、人工呼吸器を用いない場合、約2~5年で死に至ります。症状は多彩で、上肢の筋萎縮と筋力低下、下肢の痙縮が中心の普通型、球症状(嚥下障害、構音障害)が主体となる球型、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられる下肢型、などに分類されます。下肢型は、成人発症SMA(Ⅳ型)と経過の速さ以外での臨床的な鑑別が困難です。新規発症率は年間10万人当たり約1~2.5人で、95%は孤発性、5%が家族性で、平均生存期間は発症後約3.5年です。  

診断方法 成人発症か、経過は進行性か、上位・下位運動ニューロン徴候が認められるか、針筋電図所見(進行性脱神経所見、慢性脱神経所見)などを確認し、鑑別診断で他疾患を除外する。
治療方法 根治療法は確立されておらず、対症療法やリハビリテーションが中心で、病勢進展を抑制する薬物療法がある。

球脊髄性筋萎縮症(SBMA)1,4,6

球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は、四肢近位筋の筋力低下、筋萎縮、球麻痺を主症状とする下位運動ニューロン疾患です。筋力低下は30~60歳頃に発症し、緩徐に進行します。多くの場合、発症後10年程度で嚥下障害が顕著となり、発症後15年程度で車椅子生活となります。 原因は、X染色体のアンドロゲン受容体遺伝子の中のCAGリピートの異常伸長です。SMAと異なる点は、男性のみが発症する点、顔面や舌に筋萎縮を認める点、顔面にふるえを認める点などです。また、手指振戦、四肢腱反射低下、女性化乳房、睾丸萎縮、女性様皮膚変化なども伴うことが特徴です。

診断方法 臨床的特徴から本疾患を疑い、アンドロゲン受容体遺伝子におけるCAGリピートの異常伸長によって確定診断される。
治療方法 根治療法は確立されておらず、対症療法やリハビリテーションが中心である。抗ホルモン療法などの開発が進められている。

先天性ミオパチー1,4,7

先天性ミオパチーは、新生児期または乳児期から筋力低下、筋緊張低下(フロッピーインファント)を示し、呼吸障害、心合併症、関節拘縮、側弯症、発育・発達の遅れ等を認める疾患群で、筋生検で特有の形態異常を認めます。症状は生涯にわたり継続または緩徐ながら進行し、合併する症状の重症度により予後は異なります。骨格筋の筋病理像に基づき、ネマリンミオパチー、セントラルコア病、マルチミニコア病、ミオチュブラーミオパチー、中心核病、先天性筋線維タイプ不均等症の病型に分類されます。国内の有病者数は約1,000~3,000人と推定されています。原因遺伝子は、複数のものもあれば、単一遺伝子変異を認める病型もありますが、半数以上の症例で遺伝子変異が確定できていません。小児期発症のⅠ~Ⅲ型SMAと似た症状の筋疾患として鑑別診断が必要です。

診断方法 臨床的特徴から本疾患を疑い、筋生検での病理所見、原因遺伝子変異の同定により確定診断される。
治療方法 根治療法は確立されておらず、対症療法やリハビリテーション、合併症に対する治療が中心である。

Prader-Willi症候群

Prader-Willi症候群は、胎生期からの胎動微弱、新生児期の筋緊張低下、筋力低下、哺乳障害があり、皮膚・毛髪の低色素、外性器低形成などの特徴を呈します。発達遅滞があり、2~3歳頃に独歩を獲得することが多いのですが、同時期に過食、肥満が始まります。発症率は、出生1万5千人あたり1人程度といわれています。責任領域15q11-13に位置する父性発現遺伝子の機能喪失が原因で起こります。約75%は同領域の微細欠失で、遺伝性であることは稀です。

診断方法 臨床的特徴から疑われ、遺伝学的検査によって確定診断される。
治療方法 現在のところ、根本的な治療は確立されておらず、肥満を防ぐための栄養管理が重要である。低身長の基準を満たす場合は、成長ホルモン療法が受けられる。

先天性筋強直性ジストロフィー

先天性筋強直性ジストロフィーは、筋強直(ミオトニー)と筋力低下が主症状で、知的障害、心伝導障害、嚥下障害など多臓器症状を合併しうる疾患です。1型と2型がありますが、日本では大半が常染色体優性遺伝の1型です。ミオトニンプロテインキナーゼ(DMPK)遺伝子の3’非翻訳領域に存在するCTG反復配列の異常な伸長が原因です。多くは1型の母親から生まれ、新生児期から重度の筋力・筋緊張低下、顔面筋罹患、呼吸不全、嚥下障害などが認められます。乳児期の死亡率が20%前後といわれており、多くは呼吸不全によるものですが、1歳を過ぎると死亡率は低くなり、筋力や筋緊張が改善していくことが多いです。筋強直性ジストロフィー1型は人口10万人あたり7人程度といわれています。

診断方法 臨床的特徴から本疾患を疑い、DMPK遺伝子解析によって診断する。
治療方法 呼吸障害、嚥下障害などに対する対症療法が中心である。

福山型先天性筋ジストロフィー

福山型先天性筋ジストロフィーは、常染色体劣性遺伝形式をとり、日本では乳児期早期に発症する先天性筋ジストロフィーの中で最も頻度が高いです。また脳形成異常を合併します。初発症状は発達遅滞や筋緊張低下で、座位がとれるようになる例は多いのですが、歩けるようになることは稀です。5~6歳が運動発達のピークであり、以後緩徐進行性の経過を示します。10歳までには座位がとれなくなることが多く、その後も運動機能が退行し、心筋・呼吸筋の障害が進行し、その程度が生命予後を左右します。日本での罹患率は数万人に1人程度といわれています。

診断方法 血清CK値やAST値、ALT値、LDH値、アルドラーゼ値は骨格筋壊死を反映して高値を示す。
頭部MRIにおける多少脳回が、特徴的な所見である。フクチン遺伝子解析によって確定診断される。
治療方法 現在のところ根本的な治療は確立されておらず、関節拘縮や変形予防などを目的にリハビリテーションを行う。幼児期の感染に伴う一過性の筋力低下への注意が必要である。

糖原病Ⅱ型(Pompe病)

糖原病Ⅱ型(Pompe病)は、酸性α-グルコシダーゼ(GAA)活性の欠損又は低下を原因とする常染色体劣性の遺伝性疾患です。全身の組織のリソゾームにおけるグリコーゲン分解過程が阻害され、グリコーゲンが蓄積することで筋細胞の破壊が起こります。乳児型では、心肥大、肝肥大、筋緊張低下、筋力低下を呈するという特徴があり、無治療での生命予後は1~2年です。生後6ヵ月以降に発症する小児型では、筋力低下が主症状であり心肥大が認められることは少ないです。発症率は人口4万人に1人といわれています。 

診断方法 血清CK値やAST値、ALT値の上昇や、心エコー、心電図などから疑われ、GAA酵素活性低下又は病因となるGAA遺伝子変異の同定により確定診断される。
治療方法 GAA酵素補充療法が行われる。乳児型では適切な時期に治療を開始することで生命予後を含めた改善が期待できる。

文献

1. 病気がみえるvol.7 脳・神経 第1版, メディックメディア, 東京, 2013, p.268-273, 302, 307
2. 難病情報センター 筋ジストロフィー
http://www.nanbyou.or.jp/entry/4522/  
http://www.nanbyou.or.jp/entry/4523/
3. 一般社団法人日本筋ジストロフィー協会 肢帯型筋ジストロフィー
https://www.jmda.or.jp/mddictsm/mddictsm2/mddictsm2-1/mddictsm2-1-4/
4. 脊髄性筋萎縮症診療マニュアル, 金芳堂, 京都, 2012, p.12, 18-19, 21
5. 難病情報センター 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
http://www.nanbyou.or.jp/entry/214/  
http://www.nanbyou.or.jp/entry/52/
6. 難病情報センター 球脊髄性筋萎縮症
http://www.nanbyou.or.jp/entry/73/  
http://www.nanbyou.or.jp/entry/234/
7. 難病情報センター 先天性ミオパチー
http://www.nanbyou.or.jp/entry/4726/  
http://www.nanbyou.or.jp/entry/4727/

SPI-JPN-0813

SPI-JPN-0483