鑑別すべき類似疾患
脊髄性筋萎縮症(SMA)と鑑別すべき類似疾患や他疾患が疑われたSMAについてご紹介します。
他疾患が疑われたSMAについての諸外国からの報告をご紹介します。
遺伝学的検査によりSMAと診断される前に電気診断検査と筋生検が行われた15例のうち6例は、当初ミオパチーと診断されていた
(韓国からの報告)1
(韓国からの報告)1
・ | 最終的にSMAと診断された28例を検討した。 |
・ | SMAの遺伝学的検査の前に、22例が電気診断検査を、15例が電気診断検査と筋生検の両方を実施していた。 |
・ | 電気診断検査及び筋生検でミオパチーと診断されていた6例のSMA患者における、筋力低下のパターンは全て左右対称性、近位筋優位であった(表1)。 |
・ | 遺伝学的にSMAと診断されるまで11年間ミオパチーと診断されていた患者が含まれた。 |
・ | 電気診断検査を実施した患者22例のうちの多くが自発電位(陽性鋭波16例、筋線維攣縮6例)を示したが、ミオパチーの所見を示す患者も認められた。 |
・ | 筋電図で多相性の運動単位活動電位(motor unit action potential: MUAP)が示されたが、この結果によって、臨床医は筋生検の病理学的所見を誤って解釈することにつながる可能性がある。 |
◉ | 表1 電気診断検査でミオパチー性変化がみられた、もしくは筋生検で病理学的所見がみられなかったSMA患者6例の概要(海外データ)1 |
*正常範囲:21〜215U/L CK:クレアチンキナーゼ
SMAと先天性ミオパチーの臨床的特徴は類似しているため、電気診断検査と筋生検のみによる診断では誤診が生じる可能性がある。そのため、これらの検査と合わせてSMN遺伝子変異の検査を実施することが推奨される1。
対象・方法 : | 2007年9月~2016年2月の間に、韓国の単施設でSMN1遺伝子欠失が認められSMAと診断された患者28例の臨床表現型及び遺伝的分布を診療記録を用いて検討した(後ろ向き記述的研究)。 |
臨床的特徴や検査値異常が筋ジストロフィーやミオパチーと一致しているため、遺伝学的検査でSMN1遺伝子エクソン7の欠失が認められるまで、Ⅲ型SMAとの診断がつかなかった8症例
(サウジアラビアからの報告)2
(サウジアラビアからの報告)2
・ | 筋力低下の原因を解明するために、多くの検査を実施していた。 |
・ | 筋電図所見においては、正常又は軽度の筋原性変化を示した。 |
・ | 6歳で発症した患者7は、筋生検では非特異的なミオパチーの特徴がみられ、SMAを示唆する特徴がみられず、異なる部位で、異なる時期に3回検査を行っていた。本試験で行った神経伝導検査の所見では、運動性軸索型ニューロパチーと一致していた(表2)。 |
・ | 血清中CK値が1,000U/Lを超える患者がみられた(正常範囲は21~215U/L)(表2)。 |
◉ 表2 患者の臨床概要(海外データ)2
Alsaman AS, et al.: Pediatr Neurol. 2013; 48(5): 363-366.より改変
*正常範囲:21~215U/L CK:クレアチンキナーゼ DMD(Duchenne muscular dystrophy):デュシェンヌ型筋ジストロフィー
下腿の偽性肥大、肢帯型の筋力低下、血清中CK値の上昇、ミオパチー・ジストロフィー様病理所見などのジストロフィーが疑われる特徴がみられても、 SMAである可能性を否定できないため、遺伝学的検査の実施が推奨される2。
対象・方法 : | サウジアラビアで筋ジストロフィー又はミオパチーと長年疑われ、2008~2010年に神経筋クリニックに紹介され遺伝学的にⅢ型SMAと診断された患者8例を対象に、臨床的特徴に関する不均一性及び診断が遅れた傾向について検討した。 |
遺伝学的検査と筋生検で主要な神経筋疾患※と診断された1,603例のうち9.9%がSMA患者であった
(ブラジルからの報告)3
(ブラジルからの報告)3
・ | 神経筋外来を受診した3,412例のうち遺伝学的検査又は筋生検で精査された1,603例(47.0%)の診断の内訳が示された[遺伝学的検査782例(48.8%)、筋生検821例 (51.2%)]。 |
・ | 頻度が高かった疾患は、ジストロフィン異常症(デュシェンヌ型・ベッカー型筋ジストロフィー)460例(28.7%)、ミトコンドリア病330例(20.6%)、SMA158例(9.9%)、肢帯型筋ジストロフィー157例(9.8%)であった(図1)。 |
対象・方法 : | 神経筋外来患者3,412例の疾患をブラジルで17年間にわたって調査し、主要な神経筋疾患※の相対頻度を検討した。遺伝学的検査(1999年4月~2016年1月)は2,212件、筋生検(2000年10月~2016年1月)は1,200件実施された(後ろ向き記述的研究)。SMAの遺伝学的検査は、PCR法によりSMN遺伝子のエクソン7及び8の欠失を検出した。 ※主要な神経筋疾患として以下の16の疾患を規定した[①筋強直性ジストロフィー(スタイナート病)、②ジストロフィン異常症(デュシェンヌ型・ベッカー型筋ジストロフィー)、③顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、④肢帯型筋ジストロフィー、⑤脊髄性筋萎縮症(SMA)、⑥先天性筋ジストロフィー、⑦ベスレムミオパチー/ウルリヒ型先天性筋ジストロフィー、⑧先天性ミオパチー、⑨先天性筋無力症候群、⑩筋原線維性ミオパチー、⑪糖原病Ⅴ型(マッカードル病)、⑫糖原病Ⅱ型(ポンぺ病)、⑬皮膚筋炎、⑭孤発性封入体筋炎、⑮その他の炎症性ミオパチー、⑯ミトコンドリア病]。なお、その他の詳細の記載がない筋の異常、神経原性筋異常、まれな遺伝性症候群や上記16疾患に含まれない神経筋疾患、筋生検と遺伝学的確定診断によって複数の診断がつけられた患者は除外した。 |
文献
1. | Hwang H, et al.: Yonsei Med J. 2017; 58(5): 1051-1054. |
2. | Alsaman AS, et al.: Pediatr Neurol. 2013; 48(5): 363-366. |
3. | Cotta A, et al.: Arq Neuropsiquiatr. 2017; 75(11): 789-795. |
SPI-JPN-0483